今、日本の森で何が起きているか、ご存じでしょうか。
日本の国土は約7割が森林で占められていますが、今のような木や草本が生い茂る森になったのは、そんなに昔のことではありません。唯一の資源として過度に収奪されてきた森は、長らくほとんどがはげ山の状態でした。その影響で土砂崩れなどの災害が多発し、明治時代からは国をあげて治山治水事業として森林整備が実施されてきました。それに加えて、戦後から始まったエネルギー革命による里山利用の衰退により、森林はここ数十年で急速に回復したのです。
同じ時期に、戦後の復興で高まった木材需要を満たすために拡大造林政策が進められました。現在の人工林率は全体の約4割ですが、このときに造林されたものが多くを占めています。この各地で造林された人工林が今、本格的な利用期を迎えています。国の施策でも、林業の成長産業化の実現を目指した国産材の安定供給体制の構築を掲げており、全国で伐採の動きが加速しています。しかし、収益がまだ少ないことから、作業を低コストで実施するために、数十haに及ぶ大面積皆伐を行っている地域も増えてきました(写真)。このときに問題になるのが、シカによる被害です。シカの生息密度が高い地域で伐採した場合、植栽した苗木に対する食害が非常に大きいため成林が見込めなくなります。このままだと、災害が多発する過去のはげ山に戻ってしまうのです。再造林地でのシカによる被害を防ぐために、伐採後は主に柵やツリーシェルターを設置する物理的な防除が実施されています。特にシカの生息密度が高い地域では、苗木の食害を防ぐために柵などの設置が不可欠な状況です。ただ、この方法は設置のための初期コストも大きく、設置後もシカの進入を防ぐためには定期的な見回りが必要になります。設置には補助金が出ますが、その後の見回りにかかるコストは土地所有者や管理者の負担となるため、設置しただけで放置している場合も少なくありません。また、シカによる被害を防ぐためには、個体数管理のための捕獲もあわせて実施する必要がありますが、森林でシカを捕獲できる人は減り続けています。今後の森林管理ではシカの管理も必須になると考えられることから、管理を担う人材の育成や管理体制の構築を進める必要があるでしょう。
それでは、森を守るために、私たちができることは何でしょうか。
一つは、価格の安い外材ではなく、国産材に森林保全にかかる費用を含めた対価を支払うこと。そうすることで、コスト削減のための無秩序な大面積皆伐を減らし、シカの管理を含めた持続的な森林管理に取り組むことにつながります。もう一つは、シカなどの動物を含めた森林との関わりを取り戻すこと。中山間地域が衰退し、都市に住む人が増え続ける中で、森林などの自然と接する機会のない人も増えています。まずは、身近な自然に興味を持ってみてください。それが自然と関わる第一歩、そして森を守ることにつながるのです。